JIMA-DON

ニシジマオさん(自称日曜音楽家)の日常と散文駄文

オクムラユウスケ「ぼくエイリアンなんだ」

 2年前にこのブログでエヴァQの感想を書いたときに

 「東日本大震災が起きた後、本当に心を震わせた『作品』があったか?」

 などと書いていて、実際のところ「まどか叛逆」とかあったなあ、でもまあ、自分のアンテナが低いのもあるんだろうけど、どうだかねえ。あんまりすぐに思いつくものはピンと来ないねえ。
 で、端的に言うとオクムラユウスケの「ぼくエイリアンなんだ」というCDは本当に心が震えた。久しぶりに。

 そもそもユウスケさんとの出会いも強烈で、ラウンジサウンズ出初めのころにボギさん本人から
 「オクムラユウスケ、ジマオさん絶対気に入ると思いますよ!」
 って直接誘われて観に行ってぶったまげたのがきっかけだった。
 当時週一でネットラジオをやっていたんだけど、次の週速攻エンディングをこのアルバムの「動物大図鑑」にしたほど。そしてそのためにCD「メルボルン特急」を即買いした。

 仕事を戦力外通告されて、「お前この道絶対向いてないから」とまで言われる出来事があった。何もかも嫌になって失踪するつもりで東に原付を走らせた。
 力丸ダムあたりから「メルボルン特急」をずーっとエンドレスで携帯用プレイヤーでかけ続けた(※当時は原付ヘッドフォン運転についてはあまり注意喚起がなかった時代です、念のため明記)。
 彼の音楽はアウトサイダーの心を撃ち抜いて癒す音楽。けれど、偽悪的な言葉選びのどぎつさにまだ容赦がなさ過ぎて若さも感じていて、たびたび何曲かを飛ばしていた。

 その後彼のライブはかなり足を運んだ。
 新曲が増えていくたび、どうにかして歌詞を覚えようと思ったほど。新曲群の言葉選びは洗練されていき、それでいて決してあざとくも媚びもしないスタイルを続けてくれた。
 対バンの機会もあった。
 嫁もユウスケさんの音楽が気に入った。CD「メルボルン特急」はそんなに気に入らなかったんだけど、ライブパフォーマンスを観て好きになってくれた。そういえば、ほぼ同じくらいに結婚したんだっけ。

 僕ら夫婦とユウスケさん夫婦の縁が、思いもよらないものから始まった。
 うちの嫁の癌と同じ年に、ユウスケさんの奥さんの癌が見つかった。
 僕らはユウスケさんちの近くに寄るたびに足を運んで、互いに家庭で出来る療法のアドバイスをしたり、治ったら食事の約束をしたり。それは僕ら夫婦にとって初めての家族ぐるみの付き合いだった。
 ユウスケさんちのこたつで「音源、作ってるんですけどこの状態でしょう…止まっちゃってるんですよね…」って言葉に、嫁と二人で帰り道「音源、楽しみだな」って話し合った。絶対に「メルボルン特急」を凌駕する音源になる確信がある新曲群を早く聴いてみたかった。

 でも、食事の約束は残念ながら果たされなかった。

***

 ある土曜、仕事帰りに高宮から博多駅まで歩いて中古パソコン屋にパーツあさりに出かけた。
 健康のためとか何とやらもあるが、自分が歩くのが好きなのだ。
 偶然、住吉神社でイベントに遭遇して、そこでまたまた偶然、ユウスケさんに出会った。
 「音源、完成しました!!」
 なんてブログで書いてたのを知ってた。ダメもとでCDの話を聞いたら
 「ジマオさん、お客さん第1号ですよ!」
 って、懐から出来たばかりの1枚を差し出してくれた。

 本当に待ち望んでいた。家に帰って、嫁と一緒に二人で聴いた。
 嫁は何故か浮かない顔をしていた。そして気を逸らすようにスマホのアプリを始めだした。
 後でわかったことだけど、そのとき嫁にはある箇所に違和感があって、ひょっとしたらそれが癌じゃないか悩んでいた時期だったらしい。
 「こんなの凄い出来なのに」
 と自分は不機嫌になったけれど、今になって嫁の気持ちがわかった。
 一ヵ月後、その不安は的中した。

 ムコちゃんと呼ばれていたユウスケさんの嫁さんが亡くなったのは暑い日だったと聞いていた。
 嫁の抗がん剤治療と猛暑が重なったら、今度こそまずいのではという懸念があった。しかも嫁は抗がん剤治療と通ってた職業訓練学校の卒業を両立してみせる、と宣言。それも7〜8月に、だ。
 しかし今年、福岡はまれに見る冷夏だった。恐ろしいくらいに。
 加療しながら学校に通う嫁は一時期実家に帰っていた。様子を見に行ったときに実家越しに見える四王寺山を照らす夕焼けの向こうに、自分はムコちゃんの笑顔を見た。確かに。
 学校の課題、パワーポイントで「オードリー若林の魅力」をプレゼンしたらしい。無事に卒業をした嫁。そして紆余曲折の末腫瘍もなんとか姿を消した。

 そんなライクアローリングストーンなぼくら夫婦、挫けそうになるたびに
 「生きてる生きてる生きてる生きてる!」
 と何度口ずさんだことか。どん底だろうがなんだろうが、ぼくらはゆめのつづきを生きています。ユウスケさんにとっては嫁と生きる夢の続きをぼくらが、そして逆にぼくらにとっては子供と生きる夢の続きをユウスケさんが。

***

 「ぼくエイリアンなんだ」というCDには、こんなぼくら以外にも沢山のユウスケさんに関わった人々の人生、情念までもが絡み付いて重なり合って出来ています。
 不恰好でもあがいても生きてやろうって思いたいとき、プレイヤーの前で正座して聴いて下さい。きっと勇気が出ると思います。

 最後に、「動物大図鑑」ライブ版にて大声でツッコミを入れるという形で参加できたことを大変光栄に思っております。「いつもの奴やないか!!」「一瞬期待したやないかー!」はぼくの声です。

(※追記)福岡にお住まいの方であれば、一番手に取りやすい場所としてはTSUTAYA天神店のインディーズコーナーに置いてあります。ご本人が通販もされているので、是非。
 詳しくはオクムラユウスケさんのページ http://obobosama.blog.fc2.com/
 ブログ、曲解説が素晴らしい。でも、それ読んで聴いた気になるのは嫌だな。できれば買って聴いてから読んでみてください。