JIMA-DON

ニシジマオさん(自称日曜音楽家)の日常と散文駄文

不思議な体験

 先週の金曜日だったか。

 西鉄福岡駅の前に、警固公園という大きな公園があります。今の職場の帰り道に、必ず通る訳ではないけれどよく通りがかる公園。
 そこにギターを抱えた外国人がいました。髪はスキンヘッドで、どことなく友人のベルギー人ミュージシャン、アレックに似ている。あれ?アレックもうこっち来たの?って一瞬思った。二日後に彼らは福岡でライブ。でも、確かその前の日だかに熊本でライブじゃなかったっけ?

 なので当然アレックではなかったのですが、人懐こい彼は自分に話かけてきました。
 「エイゴハナセマスカ?」
 片言日本語。
 「あいきゃんすぴーくりとる」
 片言英語。

 「ゆーしんぐ?」
 訊いてみた。
 「コノギター、今日カッタ。ヒケナイカラレンシュウシテル」
 確かに新品の肌触り。
 「ヒケル?レッツシング」
 彼はギターを自分に押し付けてきた。
 えええええ!?

 ミュージシャンというかパフォーマーの性、無茶振りには応えなきゃいけない。
 チューニングは合っていた。
 自分はいつかギターの弾き語りをやるならこの曲をやろう、と『詩人ボォやん』という宇宙サービスの曲を自分の部屋でずーっと練習していました。別にオファーないのに。いや、あるときもあるんだけど。
 もう、自然に、そしてええいままよって気持ちで曲を歌い始めた。

(※作詞原案 捨四さん)

ボォやんはアフリカ帰りの詩人
近所のアパートで一人暮らし
玄関には銭のなる木の鉢植え
錆びたアパートの階段のペンキ
僕はいじめられていた子供
公園で声をかけてきたのがボォやん
いつの間にかぼくは上がりこんでいた
テレビから付けっぱなしのワイドショー

ボォやんは時々昔話
アフリカで武器商人をしていた話
恋人と別れ際に拳銃で銃撃戦
エチオピアの主食のインジェラは不味い

ボォやんは誰からも馬鹿にされた
僕のお母さんも同じ事を言っていた
僕はいつしかボォやんと自分を重ねてた
本当にボォやんは詩が詠めるのかな
ボォやん、一度でいいから僕に詩を書いて
僕のために言葉をくれないか


ボォやんは非道の大河を渡り
ただただ静かに暮らしている

***

 歌い終えて、ギターを返した瞬間公園中から拍手。
 ギターの彼、凄く誉めてくれた。その横に居たじいさんから賞賛の声。
 もう照れくさくて、周りに礼をして、あわてて電車に飛び乗って帰った。

 ・・・あれから帰り道毎度その公園を通るのだけど、彼の姿なんて全然見かけない。
 そしてふと思い出した。この公園、昔オヤジが失踪して、浮浪者に混じって生活しながら、演劇の公演の設営を手伝ってた場所だ。
 いまは信じられないかもしれないが、あそこにはホームレスのコロニーが出来ていた時期があったんだ。そこでテント芝居的な人々が舞台をこしらえていた。
 「お前たちが迎えに来なかったら、わしゃあの劇団と一緒に東京行こうと思っとったよ」
 オヤジはそんな話を後にしていた記憶がある。つか何度もこの話はネット上で日記にしたためた。ちなみに余談だけどその芝居、端役で地元の若手役者としててっちゃんが出演していた。

 あのアレックに似た外人は幻だったのか?ひょっとして死んだオヤジが見せた?いや、オヤジ本人か!?そんな突拍子もないことを思いながら彼との再会を望むべく今日も警固公園を通りました。もちろん彼の姿はなく。ただ、あの時貰った拍手の音を思い出してまた照れくさくなって、ひょっとしたらオヤジに誇らしい姿を見せられた事になったのかなあと思ったのでした。

 ※そしてその後にアレック夫妻と再会した写真。嫁のガンよ退散ポーズ!!


 ※こちらは9月にレ・ロマネスクの皆様にしていただいた嫁ガン退散ポーズ。フランス・ベルギー夫婦ユニット揃い踏み!!