JIMA-DON

ニシジマオさん(自称日曜音楽家)の日常と散文駄文

「CLANNAD」風子の考察(今更)


 先日アニメ「CLANNAD」を改めて観た。
 行き着くところが「なぜ風子だったのか?」だった。
 色々と疑念が湧いて、書いてまとめてみた。自分的には納得。

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 風子というキャラクターのシナリオは、明らかに「Kanon」の月宮あゆシナリオのオマージュである。
 メインヒロインであった月宮あゆのシナリオ担当は久弥直樹(あゆの他2ヒロインのシナリオも担当)。サブに回った形で麻枝准が2ヒロインを担当している。

 「Kanon」では、シナリオライターふたりの相克がみてとれた。久弥と麻枝、二人のシナリオはかみ合ってるようでかみ合っていなかった。特に舞シナリオの奔放さと独立性は、Kanonのなかで奇異を放っていた(プレイ当初はおまけシナリオかとも思ったくらいだった)。

 久弥直樹がKeyを抜け、「AIR」ではほとんどのシナリオを麻枝が書いた。
 久弥的なオーソドックスなシナリオを書くことは出来なかった。彼はコントロールのよさが信条のピッチャーのようだったが、麻枝には全くコントロールが定まらない感じがあった。
 ベタな展開を好まない。拾い食い的な変な展開の連続。遠まわし表現の自己陶酔と脳内麻薬。所々でたまたま、我に返ってど真ん中に放り込む。
 あの「青空」は、荒れ玉に次ぐ荒れ玉から最終打者の最後の打者に160キロ越えの弾が決まった感じであった。美凪シナリオの夢幻エンドのはかなさも忘れがたい。あれもいい球だった。

 結局「AIR」では久弥越えを果たせたのか果たせなかったのか。釈然としないままだったと思う。

 この「CLANNAD」で、恣意的なのか偶然なのか、はたまたそうしないとまとまらないと判断したのか。どうだっていいが久弥シナリオの最高峰のオマージュに挑む心境はいかばかりだったか。
 力を入れなきゃいけない。風子というキャラクターをどう魅力的にするか考えなくてはいけない。
 越えなくてはいけない壁があるから。オマージュというのは、出来が悪ければただのパクリだ。

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 結果的に出来たキャラクターは、発売直前の制作者インタビューにも見て取れた。

 「風子はね、新しいんです。今までのどんなキャラクターにも当てはまりません!風子としか言いようがないんです」

 ・・・プレイをして、全く納得した。
 風子は特徴のある口癖はあるものの、執拗に「押されてる」と感じる「キメ台詞」的な口癖はない。ひたすらライター自身の少女性を込めた、アニマ的なキャラクターであることはわかるのだけれども。

 男性が考える理想のアニマ的なキャラといえば、普通は
 「可愛くて強くてかっこいい男性の分身的キャラ」
 「自分が女性であったらこうありたいと願う徹底的に男性に従順なキャラ」
 のどちらかになるのが一般的だけれども。
 風子はあまりオーソドックスじゃない「中性的かつアグレッシブなアニマキャラ」として完成されたように思える。

 言葉回しの拾い食いから起こる変な展開の連続。拾い食いを誘う変な言動。風子いいよね、って考察すると、それは恋愛対照的女性キャラではなくコメディエンヌのそれであることに気がつく。そこに力を入れすぎるくらい入れた。風子シナリオ自身も、AIRのオマージュのように最後の
 「毎日が・・・ヒトデ祭り・・・でした・・・」
 の一発の感動シーンの高揚感まで、拾い食いに次ぐ拾い食いを続けていく。台詞回しも当然ヘンになっていく。

 結局風子というキャラクターは「舞台や映画でしか見られない、空想上の女の子」になってしまった。AIRでも遠野美凪がそのきらいがあったけれども。
 本来サブヒロインの風子がゲームではある大役を任されることになるのだけれど、それは納得の行く話だったのだなあと思う。彼女だけがあまりにも現実からかけ離れた存在になっていた。

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 さて、この熱量のあるキャラクター、伊吹風子をアニメは真っ向から忠実に描写した。それはもう丁寧に、嘗め尽くすように。ファンサービス的なオリジナル参上シーンまで用意して。
 結果的にこの風子というキャラクターについていけない人には、全く「キツイ」アニメだったと友人は語った。
 風子は「中性的かつアグレッシブなアニマキャラ」として完成されてしまっている以上、これは、こんなアニマを持っている人にしか波長がとても合わない。

 狂言回しのコメディエンヌがあれだけ熱量を持って動き回れば、それは納得の行く話だ。アニメ全体、通しで見た。アニメのスタッフすらも、風子の熱量に翻弄されたのだと思う。あの最終話のEDテーマのラストで、「あっ!」と声をあげた人こそ、このアニメを一番楽しめた人なんだなあと思う。

 自分は本放送時見てたんだけど、そこまで気がつかなかった。っていうか福岡では最初のシーズン12話を放送していなかったので、風子マジックにかかっていなかったというのもある。

 「恋愛対象とはちょっと違う。でも魅力的。」
 ひょっとしたら伊吹風子は、出る作品を間違えてしまったかのようにも思える。
 その世界に閉じ込めておくのがもったいなかったともいえるかもしれない。そんな特異なキャラクターをきっちりと魅力を伝えきったアニメーションのスタッフ、そして見事に演じきった野中藍は素晴らしいと思った。