夢枕に立たれる
父親はつかみ所のない人で、いつかこのオヤジからもっと面白いエピソードを引き出しながら、一緒に遠くに旅をしたいなあと心の中で思っていた。
一度、友人が遊びに来ている最中に酔ってくどくどと説教を始められ、かっとなって手を上げたことがあった。オヤジは大怪我をした。
以来、自分と話すときのオヤジは、どことなくよそよそしいものを感じた。それはそうだろう。
それが無くなったのは皮肉にも親父が入院してからだった気がする。
オヤジが入院中、「峠かもしれない」と医者に説明を受けた次の日に夢を見た。
オヤジと二人、旅をした。関西から西に向かう夢だった。
どこかよそよそしい会話を延々としたが、取りとめもない話ばかりが続いたという記憶しか残っていない。
それから3ヵ月後に亡くなった。
一年が経つ。
昨日、嫁と話す。
オヤジの話をした。思い出したら、ひょっとしたら自分はあの時、手を上げたことを謝っていないんじゃないか、って事を思い出した。
意識不明のオヤジに向かってそれを言ったような記憶もある。
葬式のときにそう言ったような記憶もある。
だけれど、それを謝ったのかどうか、本当に思い出せない。
「もし、夢に出てきたら、謝れるかなあ」
みたいな事を考えた。・・・まあ、こんなこと考えたところで、夢枕にオヤジが立つようなオカルトなんて、的中したためしがないんだけれど。
今朝、本当に夢に出てきてしまった。
何故か太宰府からバスに乗って宇美まで行き、香椎線に乗る。
車中でオヤジとは離れて座った。
その前も、何を話したろうか思い出せない。
博多から新幹線で旅をしようと持ちかけたのは俺だったが、親父は乗り換えの多さにすこし不満げ。だが旅には不満はなさそうで、お洒落な帽子を身に着けていた。
香椎線の乗換駅でオヤジはパチンコに出かけてしまった。ちょっとならまあいいか、と苦笑。
パチンコ台の後姿をひたすら探したがオヤジの姿は見られず、そのままアラームで目が覚めた。
「しまった大事なことだけ忘れてた。これ俺のいつもの病気だ」
目が覚めて、猛烈にそう思った。
ごめんなさいはまたの機会になのか。それとも、オヤジにとっては本当はもうどうでもいいのだろうか。