JIMA-DON

ニシジマオさん(自称日曜音楽家)の日常と散文駄文

高瀬舟

■説得5時間、「ごめんなさい」と男性投身自殺
(読売新聞 - 01月20日 11:37)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1083359&media_id=20

 今、自分は父を延命治療の檻に繋ぎとめている。

 体調を崩した父は、突然入院先であごをはずし、さらに肺炎を併発。
 意思の疎通もろくに出来ないショッキングな様相に陥ったが、その後転院先で呼吸器にたんが詰まって脳死に陥った。

 ・・・とまあ、さわりを書くだけでなにが何やらよくわからないが、結婚やらでばたばたしている間に、こんな風になってしまったのだ。思い出すだけでも訳がわからんのだが、ともかくもそういった風でとりあえず現状はこうだ。
 目は開くが言葉を発することのない、意識があるのか無いかもわからない。

 その状況になって、もうすぐ1年がたつ。
 最近は職場も親父の病院の直近なこともあり、治療関係の合意書などは自分がせっせと印鑑を押していたりする。
 とりあえずこの状況の現実的な手続きを必死にして(助言をくれたびぃびぃ君は親からも感謝されてる)、なんとか自分たちの身の回りを整えるのはうまく行った。だが、それは自分たちのためのこと。

 どうすればいいのかわからないし、どうにもしようがない。
 生き行くものには、死に直面するものには何にもしようがない、そんな状況。

 去年末くらいにはしこたま体調を崩した。
 目が落ち窪み、死人のような肌の色と限りなく冷たい体温。
 繋ぎとめる機器が「体温が低すぎます」警告表示を常に発していた。
 とうとうきたか、と感じたさ。
 だが、一ヵ月後峠を越えた。

 親父のいたい場所は、地獄のようなこの場所かい?と問うたとして、答えなど返ってこない。
 だが生き行く自分には、その結果を肯定的に受け取るよりほかはないだろう。たとえそれが偽善であったとしても。

 先日母から電話があり、「辛いだろうけど、いっそのこと・・・」と催促する身内がいると聞いた。
 病院の面会名簿に名を連ねるのは母親と俺ばかり。
 当事者じゃなきゃ気楽でええわい、と一笑に付そうとしたものの母親の口調はくたびれていて、事態の深刻さを多少伝えていた。
 「人殺しはごめんだ」と告げた。
 オフクロと二人、やっていることは偽善に過ぎないかも知れないが。
 俺たちはいつの間にか、死の現場に深く関わりすぎたのだろう。
 その言葉は放った自分にもその日一日突き刺さった。オフクロもきっと、同じことだろう。
 「あたしもだ、うん、がんばる」と。声に生気がみなぎっていた。

 ***

 で、ニュース記事。
 もし、この現場にいたとしたら。
 優しく「死にたい彼の気持ち」を肯定してあげようと思う。
 もし、親父が一刻も早く死にたくて、今もずっと苦しんでいるのであれば。
 「生きていたらいいことがある」
 だなんて優しい嘘なんて言う資格がないから。