11.11.11
嫁の手術から少し経ったころだったと思う。
嫁の母親と嫁の先々の話。
「(本名)は、もう今年いっぱい生きられんと思う」
「・・・そう思います」
嫁のがんの病状は、ブラックジャックの実質最終回に出てきた「腹膜播種」というやつで、手術後に医者が出てきて我々に告げた言葉は
「かなり広がっていました」
だった。
ブラックジャック先生は腹膜播種の政治家に向かって
「これを手術で治せるのは私くらいのもんだ」
と言い放っており、嫁を執刀した医者には残念ながら顔にツギハギはなかった。
嫁の母は冒頭の言葉にある通りを見越して、介護ベッドを買った。
退院後間もない嫁の寝ている、そのベッドの上で。クラッカーか何かの賞味期限を俺が見て、声を上げた。
「そっか、今年の11月11日って、11.11.11か!!」
複雑な心境だった。
今年いっぱい生きられるか知らん状況。果たして嫁はこの日を迎えられるだろうか。
それまでにどんな過酷な試練が待ってるのだろうか。
自分が耐えられるだろうか。
色々頭の中に瑠璃色の風を吹かせて、人間よ、もうよせ、こんなことはと思うくらい切ない気持ちになっていた。
あの頃は、本当にぼろぼろだったなあ。
さて、迎えた11.11.11。嫁は冒頭の会話があったという話を聞いて
「お前ら人を勝手に殺すな!!まったく!!」
嫁は「生きる気満々でいたら治ったんじゃね?深く考えてないぞ」と一言。
自分ももしがんになったら、見習うことにする。
嫁は生きてる。信じられん。