日常にうっかり現れた非日常の恐怖
落とし穴転落死 救出に2時間
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1722606&media_id=2
ヤングサンデー創刊のラインナップで、御茶漬海苔が「TVO」という連載をやっていた。
初期話だったと思う。
小〜中学生と思しき兄妹。ファミコンに夢中の兄が、アドベンチャーゲームの謎解きがうまく行かないと嘆いている。「水槽の罠」という、縛られたまま水が満たされていく水槽に閉じ込められた状態から脱出するための謎解き。何度やっても「ブー」という警告音。安っぽい音、そして「ごはんよー」と呼ぶ声。夕間暮れのぼんやりとした日常を髣髴とさせる。
さて、ページをめくると。どうやって作ったかとか、こんな大掛かりなもの子供が作れるのかよとか。そういうのを一切無視して、いきなり
「じゃーん、水槽の罠を作ったよ」「おにいちゃん、すごーい!」
作ってしまったのである。おそらく、何かの間違いで。
兄妹は、迷いもなくゲームの再現を施す。もちろん水槽は水で満たされる。
妹はもちろん水槽の中であえなく溺死する。
兄は妹のなきがらを水槽から引き上げ、攻略本を片手に「復活の呪文」を唱える。
そこに「ごはんよー」と呼ぶ声。妹の声が聞こえないことを訝しがる母親に兄がこう答える。
「もうすぐ復活するんだ」
非日常を日常に出現させるというのは恐ろしい。
テレビの低俗な(これは誉め言葉でもあるんだけど)バラエティーに落とし穴はよく出る。
このニュースでどうしても想起したのはとんねるずの番組の「全落オープン」で、なんだろうなあ。
あれもよく見れば、「一歩間違えれば死んでるよね」という瞬間が実際には何度も映っている。
テレビの彼らは体を張って「非日常」を精一杯表現し、日常の皆様を楽しませている。
「落とし穴」はああ見えて、サーカス張りの命がけの芸。
夫婦の友人たちは最初悲鳴を聞いて、あのテレビのガヤのように笑い声を上げただろう。
「きっとこの辺は編集でカットだな」「まあテレビでは次のシーンで引き上げられてるもんな」「後になって笑い話」
いろんなテレビ的な非日常が脳内に浮かんで、きっと緊急対応は遅れただろうなあ、というのは想像に難くない。そもそもまじめに安全対策を考えていたら穴は広くても深さは背丈弱程度になったろう。そこをテレビサイズにとしているのだから、目的が「テレビ的非日常の発現」にあったことは間違いなく。
ただ残念ながら彼らは大人であって、きっと冒頭の少年のように非日常のままで居られた時間はおそらく短かったであろう。犠牲になった二人の無念、残された人間たちのこれから。いろんなことがやりきれなく感じる。
非日常を日常に発現させる怖さ、地方都市で芝居やらバンドやらをやってる位の自分ですら、幾度と修羅場を見た経験から理解できる。自分の身を振り返っても「こんな馬鹿なことで」で負った怪我は大抵深い。謹んでご冥福を祈りたい。