おくりもの
嫁の病室にDVDプレーヤーが届いた。
うちの兄妹が俺の知らぬ間に駆けつけて、買ってくれたとのこと。
・・・にしておいた。
実は前の日、仲の悪かった妹から電話があった。
長年の声でわかった。本気で心配をしてくれていた。
「見舞いに行かせて」
断る理由はなく、ちょっとした謝りを入れた。
「嫁には自分に内緒で来たことにしといて」
そう言った。
一年近く憎みあっていたような気がする。
自分は今の感情がよしとするなら別にいい、と簡単に考えを切り替えられる。妹も兄もそうだ。
それは他の人々には奇異に映るだろうな、と思う。
僕ら兄弟はみんな、「他人と世界の認識がずれてる」ことに苦しめられる経験を多くして、なんとか生きている。
そんな僕らを愛してくれる人が、3人とも存在していることには感謝したい。
3人とも、優しさだけが頼りで生きている。そしてそれを仇にされたりして、ひねくれて生きている。いつもそう思っている。その優しさを解ってくれる人と上手く付き合えなかった妹よ、盆や正月に見た彼の車を見て思っている。離さないで欲しい、がんばって欲しい。
見舞いは、せりざわ君と風原君と一緒に行った。
嫁に会うと開口一番、嫌な話を聞いた。
その中身は自分に対するうんざりする悪口で、わざわざ嫁の目の前で嫌な話をする人々の気持ちが僕にはわからない。
それを真に受けてしまった自分を嫁に恥じなくちゃいけない。申し訳ない、嫁。
必死に打ち消すべくDVDプレーヤーを再生した。
バカ話もした。
気が付いたら面会時間が過ぎていて、慌てて出ようとした僕を嫁が引きとめた。
「いつもありがとうね」と「いってらっしゃい」を忘れていた。
心の異形の自分を、嫁は優しく見てくれている。これ以上の幸せはない。