JIMA-DON

ニシジマオさん(自称日曜音楽家)の日常と散文駄文

【ちょこっとだけ追記】いつもありがとう

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 ライブ後、無二の親友である大将と、ライブのオーガナイザーのBOGEY氏に嫁の病状を告げる。
 そしてひとしきり苦しい思いを話した後、
 「結婚式をやってあげたいんです」
 とあつかましいお願いをした。

 気に留めてもらえるかどうか解らないし、それが走り出したとして果たしてできるかどうかわからない。指輪を買ってあげるお金もない。
 大将は「嫁の病状がどうであれ、やろうや」と言ってくれた。

 自分の表稼業がかきいれ時なんだ。
 ここで稼がないと1年が成り立たない。
 春にしか出来ないなあ。でも、やれるのなら楽しみだ。
 まだ、口約束の段階だけれど。でも、やれるのなら嫁にもっともっとおれの凄いとこ見せたいなあ。
 日本中の人に祝福される結婚式をしたいなあ。サイトのお客さん。芝居で、バンドで出会ったスゲエ人たち。

 「あたし、さげまんなのかな・・・」
 なんて昔、嫁が言っていた記憶がある。
 ・・・もしそうだったとしても、俺はお前がいなかったらいろんなことに押しつぶされて死んじゃってるよ。

 さあ、今日は病状の説明だ。どんな結果も受け止めるよ。

 朝起きてメール。
 嫁からの返事が来ない。怖い。
 mixiの、嫁のアカウントを覗く。最終ログインは10分以内だった。
 よかった。


 午前、オードリーのカレンダーがようやく届く。
 さあ出発だ。
 病院の、電車の最寄駅からは15分。
 嫁と好んで観ていたロケ番組があった。その番組が福岡でロケをやったとき、ここでお笑いタレントたちがマジカルバナナをしていたなあ。
 嫁に見せるべく、写真に収めた。

 前日のライブではCDが売れていて、その収益でラジオを買った。
 ピンク色。嫁が好きな色だ。女の子はやっぱりそういう風に出来ているのだろうか。
 嫁は永遠に、30を超えても「女の子」だ。
 実社会で出会うような「女の人」じゃあない。
 世間ずれした「女の人」の小ずるい立ち回りも覚えることなく、挫折をして、世間に絶望して、それでもただ恋に生きて、「女の子」であり続けた。素朴で、誰も騙すこともなく、誰をも傷つけない。
 だからピンク色でいいのだ。

 病室の嫁は、苦しみの中にいた。
 暗澹たる気持ちを必死に隠す。

 少しでも昨日もらった、無形の力が通じていればだなんで、そんな甘い話などあろうものではないことを思い知らされる。
 間違ったことはしていない。結果が伴っていればの話だね。
 ニヒリストの自分の影法師の声が響く。

 腹の水はさらに増え、ふくらみはまるで妊婦のようだった。
 苦しかったろう、寂しかったろう、怖かったろう。
 その体で嫁は、個室のトイレとベッドを往復していた。
 立ち上がるたびに痛みを覚えながら。

 全身の毛が逆立って行って、無力感だけが自分を包んでいった。
 嫁はそれでも自分に、出来るだけ明るく振舞ってくれた。
 
 もう一度、昨日の携帯を見返した。
 ライブ終わった直後。嫁に捧げる曲を号泣しながら歌って、すぐさま送ったメールに、嫁はすぐさま返信をしていた。おそらく夜の孤独と恐怖に耐えながら。
 「くぉら!公共の場で本名言うとは、どういう了見だ!
…嬉しかったけどね。

 その日はいくつもメールを投げていた。
 返事はほとんどやってこなかった。
 唯一来た返事がこれだったのだ。よっぽどうれしかったんだろう。
 照れ屋の嫁の顔が浮かぶ文面に、涙が出た。

 つかの間の二人の生活。
 そのうち、両親がやって来た。僕の母親も。
 インフォームド・コンセントが始まった。

 辛い診断結果と、少しの希望の持てる話と、辛い決断とを迫る話。
 嫁は表情を変えずに医者に頷いた。
 動揺を隠せない僕らの横で、全てを受け入れるといった表情で。

 みんなが帰った。
 二人きりで過ごした。

 いっぱい話をした。
 医者の説明はまだ、このときは希望に満ちていた。
 「自分はねえ、どうやら人と見えてる世界がちがうっぽいんだよ」
 嫁には詳しくしたことがない、ADHDの話をした。
 「病気っつーのはなったものはしょうがないと思うしかないやな。あるがままを受け入れて、そっから先で僕らなりの幸せを見つけようじゃないか。」
 そして二人で泣いた。僕らは子供なので、お互いの弱さを簡単にさらけ出しながら生きてきた。本音をそうやってぶつけ合って、二人で支えあって生きてきた。

 そして二人でキスをした。
 「いつもありがとうね」。
 いつもの「行ってきます」「行ってらっしゃい」。
 もう一度キスをして、駅に向かった。

 家に帰ってネットを見ると、昨日のライブの感想が各所に上がっていた。
 大絶賛されていた。
 

 去年嫁の誕生日ケーキを買ったとき、ケーキに書いた言葉。
 「いつもありがとう、どんちゃん
 この台詞をどっかで言った記憶があるんだが、何の曲だったっけなあ。

 ラウンジサウンズお越しいただいた方本当にありがとう。
 黙々と家事をこなしてくれる嫁に自分は「いつもありがとう」と言うようにしています。
 その「いつもありがとう」という言葉と同じくらいの暖かい眼差しと、感謝を込めてそう言いたい。

 なんだかね、何もかもうまく行って盛り上がって、奇跡みたいな夜でした。
 最後、感極まってしまって泣いてしまった。
 皆様から上がった(嫁の本名)がんばれの声、本当にありがとう。
 こういうときは夫の俺が強くなきゃいかんのに、本当にバカだ。
 みんなに精一杯の届くだけの幸福あれ。

(セトリ)
1 宇宙サービス
2 mozaic
3 starfish
4 ニートかぞえうた
5 ポジティブシンキング(全自動リズムというバンドのカバー)
6 嫁
7 TVO
8 いい大人
9 (てっちゃんダンスタイム)
10 ヨドバシ〜独裁者マーチ
11 男気
12 25%削減のうた
13 月のなか

 そう、今一番自分が歌いたかった曲は13だったんだなあ。
 思いは届いただろうか。

 大将とBOGEY氏に軽口で「全快して戻ってきたら結婚式やってあげたいなあ、協力してくれませんか」なんてあつかましい話をしてしまう。恥ずかしい。

 打ち上げに行く。
 嫁の大好物のカクテルを頼み、嫁自慢とオタク話に終始。嫁といつもやってるみたいな。
 昨日の一日を嫁に捧げる。・・・なぜならば!!
 実は昨日、嫁のシャツ着てライブやったからな!!内緒で!!ふははははは!(※これは絶対怒られます)

 画像は昨日その打ち上げで話してた紙相撲。
 http://dohke.mukade.jp/radio/senshu.html