JIMA-DON

ニシジマオさん(自称日曜音楽家)の日常と散文駄文

シン・ゴジラの感想

 ちょっと前に選挙が立て続けに起きました。
 イデオロギーにかぶれていなかった友人たち(特に音楽系)が大挙して突然
 「この国は危険な方向に向かっている!戦争の出来ない世の中を!原発を止めよう!」
 と感化されたような発言を始めました。まああの候補者のおかげでしょう。そしてそのしがらみでもあったのでしょう。そういうミュージシャンや文化人、総動員されてたし。しがらみ、厄介な話ですが自分が表稼業では政治的思想の意味ではない保守の仕事をしている関係上「そういった意見に与するのはどうか」と思っているのと根は一緒です。

 で、「シン・ゴジラ」を観ました。
 本当の保守の現場を淡々と描写していました。
 早口で長々と繰り広げられる会議。広げられるデスク。そこに置かれるパソコン。そして並べられるレーザープリンター機。無機質な計画報告書のタイトルに苦笑するる主人公。
 なにより「想定外だから仕方ない」とばかりに、どこか諦観というか、ときおり場違いなタイミングでコミカルな対応を取る主要閣僚の姿。昔大震災が起きたとき、自分は田舎町の小さな土建屋にいたのですがそこにも震災関連の仕事の依頼が来ました。社長以下出張組は帰社して開口一番「いや〜、放射能浴びてきたバイ」と呑気に。
 「シン・ゴジラ」では「与党」「野党」の政治闘争の言及は最低限だった(というか情報量多くて覚えてない)ので、自民党的なものが与党だったのか民主党的なものが与党だったのかはわかりません。まあ一部実在する閣僚そっくりの人物が出ていたので、自民党と考えるのが妥当でしょうが。
 怪獣映画かと思ったら、リアルな災害パニック映画だったという有様。

 「音楽に政治を持ち込むな」という台詞が一時期流行りましたが、こんどはその罵声を浴びせられた人々から「子供向け怪獣映画に政治を持ち込むな」と吹き上がる人々が出てもおかしくない。自衛隊は出る、緊急事態条項なんて台詞。在日米軍は出る。中韓露の怪しい動き。リアルすぎる。
 冒頭に書いた友人たちは、サラリーマン的世情に疎い人々がかなりいます。むしろそこからあぶれたものが多い。まー色々あって今はあぶれているけど、サラリーマン的自分は「音楽に政治を持ち込むな」はわからないでもない。音楽で伝えられる少ない情報量で政治をスパイスで入れるのは結構難しいから。でも、この映画に関して「子供向け怪獣映画に政治を持ち込むな」は筋違いに思える。情報量が多すぎて、リアルな「政治」はスパイスでしかない。
 そう、スパイスと言えば象徴的に何度も出てくるSNS。そして動画サイトの「弾幕」。
 古い気質のミュージシャンってあれ凄く毛嫌いする人が多いんですよ。去年の小林幸子の紅白を見て「若者に媚びてるようでイヤだった」と感想を述べた友人が居たほど。
 この映画では「普及したネットインフラ」のアイコンとして使われていました。この次の日放映された王道アニメ「ラブライブ!サンシャイン!」の最新話でも全く同じような使われ方がされており、かくいう自分もあの動画サイトの「弾幕」って嫌いだったりするのですが考えを改めざるを得ない。時代は変わったのだと。
 この映画には「2015年(撮影当時)の今のアイコン」が詰まっています。違和感を覚えたり嫌悪感を抱いたモノがあるのならば、それは単純にそれを受け入れていなかったり、嫌いだったりするだけ。
 いつまでも昭和じゃないのですよ。

 さて、長々とこんな文章を書いた理由なんですが「シン・ゴジラ」は「右翼とか左翼とか」みたいな思想的なものは一切捨てて、そして「怪獣映画とは子供向け映画でありかくあるべし」とかいう様式美を求めるのもやめて、「流行ってるから観にいってみよう」で見に行ってみろ、と言いたいのです。特にこないだの選挙で初めて政治に触れた、と言っていたような人々に。
 実際自分はそうしましたし、観劇後茫然としました。
 その上でイデオロギーを語ったり、俺の考えてた怪獣映画と違うと叫ぶのも自由。

 めちゃくちゃにシンプルです。最初の「大怪獣ゴジラ」が生まれなかった現代世界にゴジラが現れたら、を描いただけの映画。だから「怪獣」という造語は登場せず、田舎の狩猟標識に見られるような「有害鳥獣」というリアルすぎる言葉が飛びだす。
 世間は一緒です。登場するゴジラは自然現象であり、「巨悪」でも何でもない。そして翻弄される政府関係者も米軍も逃げ惑う一般市民にもどこにも悪は存在しない。先の選挙騒ぎで「仮想敵」「巨悪」を作って罵倒を繰り返す手法しか出来なかった人々は、結局作中に登場したとおりデモで見当違いの罵声もしくは賞賛を浴びせる事くらいしかできない。
 あのシーン、「大規模インフラ整備という公共事業などムダ」の冷や水を浴びせかけられながら淡々と道路保全の末端仕事してた自分が、「ムダをなくそー、きっとあそこには利権があるはずだ、おー!」と一丸となって、民主党政権を成立するまでに至った人々を冷ややかに眺めていた過去を想起しておりましたよ。巨悪なんていないのに。むしろ、現場写真や実験結果写真は膨大に撮らなきゃいけない予算は細部に至って記録しなきゃいけない電子納品クソめんどい、巨悪ってどこよ!いるとすればこの巨大なひとつのアリの巣のような思念共同体?サタン?リトルデーモン?いるわけないじゃない、そんなもーん!津島ヨハネ

 あ、でも「怪獣プロレス」が真剣に見たい人は見ないほうがよいかも。河崎実監督の「大怪獣モノ」のほうを観にいったらよいのではないでしょうか。

***

 で、物語を観て何を感じたかは個人的事情で書けない話です。これは胸に秘めておきたい。それは一生残るだろう、しかしそれくらい観た価値は十分にあった。さわりだけ書くとすれば、自分はゴジラのほうに感情移入していた。
 間違いなく何度か観にいくべき映画なんだけど、それがあるので見るのは一回にとどめておきます。